メディア情報検証学術研究会2005招待講演

リサーチ・リテラシーの応用問題としての「少子化」

赤川 学
(信州大学)

概要: 世に溢れる世論調査・社会調査の中には、ゴミというしかないほど無意味なものが少なくない。また世論を特定の方向に誘導したり、特定の政策形成の合意をとりつけるために、意図的に歪曲された情報が流通することもある。こうした情報に惑わされないために、世論調査・社会調査における統計情報を批判的に読み解くリサーチ・リテラシーの必要性が、谷岡一郎『社会調査の「ウソ」』(文春新書、2000)らによって、提唱されている。
 今回の報告では、リサーチ・リテラシーを、現実の社会問題をめぐる言論に対して、応用的に実践したい。取り上げる素材は、昨今の少子化・人口減少をめぐって流通している社会統計である。
 近年の少子化言説では、少子化が進むのは、主として女性が産みたくても産めない環境があるからであり、女性が仕事と子育てを両立できる労働環境や育児サービスが充実すれば、出生率も回復する、というタイプの主張が主流となっている。そうした主張を支えるために、「女性労働力率が高い先進国(県)ほど出生率も高い」「子育て支援支出(特に公的保育サービス)が充実している国ほど出生率が高い」といった統計が頻繁に使われる。
 しかしこれらの統計には、さまざまな難点がある。@自らの結論を導くのに都合のよい国だけがサンプルとして選ばれている、A二変数の相関関係が、別の第三変数によって規定された疑似相関である可能性がほとんど検討されていない、B計量分析のうち、自らの政策提言にとって都合のよい部分だけが恣意的に強調されている、などの点である。
 当日は、赤川学『子どもが減って何が悪いか!』(ちくま新書、2004)で行った実践例はもとより、この著書に対してなされたさまざまな異論反論、賛否両論をご紹介しつつ、さらに精緻なリサーチ・リテラシーを実践してみたい。
キーワード: リサーチ・リテラシー、少子化、男女共同参画