メディア情報検証学術研究会2005特別企画
新聞を読めば本当に国語力はアップするか?
―小論文・懸賞論文の書き方講座―
掛谷 英紀
(筑波大学)
概要: 新聞セールス用の文句として、「入試によく出る○○新聞」というキャッチ・コピーがしばしば使われている。実際、新聞の一説が入試に出ることはよくある。限られた時間の中で多くの問題を解くことが要求される現在の一般的な入試形式では、文章を一度読んだことがあれば、読んだことのない人に比べ、読解問題において有利に立てることは確かであろう。しかし、それが本当の意味での国語力アップにつながっているとは必ずしも言えない。
最近では、一般入試以外に、推薦入試あるいは自己推薦入試(AO入試)などの定員枠を新設、拡大する動きも増えている。これらの試験では、しばしば小論文が課される。小論文のような作文能力も、当然ながら国語力を構成する重要な要素である。では、作文能力の向上という意味で、新聞を読むことはプラスに働いているだろうか。
筆者は、大学の教員という立場上、試験やレポート課題などを通じて、小論文を採点することがしばしばある。そこでは、逆に新聞の社説の悪影響を受けていると思われる作文が数多く見られる。
新聞の社説は、基本的に上位下達の文章である。つまり、よく分かっている人間が、分からない人間に教えてやるというスタンスで文章が書かれている。悪い言い方をすれば、批判力のない人にある一定の見方を植え付けるという側面を持つ。学生がこれと同じスタイルを真似て小論文を書くとどうなるか。小論文を採点する側は、一般に学生よりも知識が豊富であり、批判力も備えている。よって、社説風の文章は、読者に容易に反駁されてしまうことになる。これでは、高得点を得られる可能性は低い。
入試の小論文に限らず、学生懸賞論文、入社試験の論文、入社後の企画書など、管理職になるまでに人々が書く文章のほとんどは、下意上達の文章である。つまり、学生は卒業後も20年間、あるいはそれ以上の間、下意上達の文章を書き続けなければならないのである。しかし、この下意上達の文章を学校教育で教わる機会はほとんどないのが現状である。また、学校教育に限らず、下意上達の文章は、一般に試験官や上司などごく一部の人のみが読者となるため、一般の人がその手本となる文章を見る機会すらほとんどない。
筆者は、大学において、この下意上達の文章の上手な書き方に関する講義を行っている。本企画においては、その講義内容をベースに、試験官や上司を説得する力を持つ力強い文章の書き方を一般向けに紹介する。
キーワード: 新聞、社説、作文、上意下達、下意上達